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2017年12月28日
来年度の設立に向け日体大でシンポジウム開催
「日本版NCAAの可能性〜大学スポーツの潜在力〜」

12月2日(土)、日本体育大学(以下:日体大)主催による「日本版NCAAの可能性〜大学スポーツの潜在力〜」と題したシンポジウムが、同校 東京・世田谷キャンパス記念講堂(東京都世田谷区深沢)で開催されました。

開会の挨拶は、日体大学長でありロサンゼルス五輪・体操金メダリストである具志堅幸司氏。NCAAの本家・アメリカでは、アメリカンフットボールやバスケットボールなどの試合において、地域の方が大学オリジナルのTシャツを着るなど一体となって盛り上げる文化にあるが、日本ではまだその域にいっていないことを挙げ、2018年度中の日本版NCAAの創設にむけ、一層の地域とのつながりの可能性と、愛され応援される大学スポーツになることを期待するとコメントしました。

続いて、日体大理事長であり元衆議院議員の松浪健四郎氏が挨拶。松浪理事長は、学生アスリートの安全の確保は不可欠であり、日本版NCAAができることでアスリートの練習や試合中のケガを補償する保険などの必要性を強く感じると伝えました。

基調講演は衆議院議員 元文部科学大臣の馳浩氏。母校・専修大学のグランドコートを持参、また日体大オリジナルのネクタイを着用し登壇。冒頭の学長挨拶と同様、こうした大学単位のグッズを製作し着用することで、在学生の愛校心、OBOGの母校への愛着、さらには地域の方々との一体感といった効果が期待できると語った上で「大学スポーツは社会に大きな影響力、発進力を担っている。国益にもなり得る価値観がある」と論じました。

前後半に分けたシンポジウムでは、本学・藤本淳也教授が講演。専門のスポーツマーケティングの見地から「大学スポーツのブランディング」について、意義と課題を述べました。
最初に、本学は2015年に開学50周年を迎えたことで「大体大ビジョン2024」を策定し、その中で「大体大DASH」をスタートさせたこと、また来年4月にアスレティックデパートメント(スポーツ局)を開設する計画であることを紹介。その理由と背景を踏まえ本題に入りました。

講義の冒頭で「ポイントは2つ」であるとし、大学スポーツのブランディングの「意義」としては品質管理が大事であり、「課題」として戦略的ブランドマーケティングが大事であるという結論から紐解きました。

まず、大学ブランドは各学部や付置施設、そして大学運動クラブなどの「サブブランド」の柱で支えられる「マスターブランド」であることを説明。各サブブランドの品質管理が重要であること、大学運動クラブを統括するアスレティックデパートメントの創設は新たな強いサブブランドの構築(太い柱の構築)を意味すること、アスレティックデパートメントにおける「品質管理」は他のサブブランドの品質にも大きくかかわるとともに大学ブランドの柱であるサブブランドを横につなぐ「梁」として機能すること、を指摘した。

 

大阪体育大学のブランドの体系

 

そして、大学が管理すべき品質は「学位授与の質」であり、アスレティックデパートメントが管理すべき品質は「学生アスリート」の学位取得、大学アイデンティティ、ライフスキル、競技力、「運動クラブ」のガバナンス体制の整備やチームブランド管理などがあると説明しました。

 

大学スポーツの視点から見た大学ブランディングの品質管理

 

また、そうしたブランド構築のためには課題があるとし、それが戦略的ブランドマーケティングの立案・実施の力であると続けました。

マーケティングとは「誰に」「何を」「どうやって」という、ターゲットと価値と手段の明確な設定が必要であると説きました。その手段として「インナー(学内)ブランディング」とアウター(学外)ブランディング」があり、目的として達成すべきことは、インナーの場合は「学内のステークスホルダーに対して、大学へのアイデンティティを醸成し、外へ向かう力を作り出す」、アウターの場合は「学外のステークスホルダーに対して、大学への関心、ロイヤルティ、行動、そして期待を作り出す」と結論づけました。

さらに展望としては、日本版NCAAは、各大学が傘下に入る「アンブレラブランド」として存在するべきだと展開。各大学は、スポーツ庁が掲げる「日本版NCAA」というブランドに大学のスポーツ改革を委ねるのではなく、スポーツ庁によって「日本版NCAA」という大きなアンブレラ(傘)が広げられた時に、そのブランドのメンバー入りを目指すのであれば、自ら大学スポーツ改革を推進しなければならない。

 

日本版NCAAブランド、アンブレラ・ブランド

※図:“Atlantic Arc City” (http://atlanticcities.eu/archives/6582?lang=en) のデザイン(図)とその枠組みを援用

 

それらの大学がアンブレラの下に入ることで、「日本版NCAA」というアンブレラ自身の品質もブランド力も向上する。日本のスポーツ発展の根幹でもある大学スポーツの発展のためには、個々の大学がそのあるべき姿を追求し、しっかり力をつけていくことが大事だと伝えました。

また、関西の12大学の研究者らが発起人となり、2018年4月の創設に向け現在議論がなされている「大学スポーツコンソーシアムKANSAI」についても触れ、関西の大学も一丸となり、それぞれが力をつけていくことで大学スポーツ振興の機運を高めることに取り組んでいることを紹介しました。

結論として藤本教授は、ブランド確立には品質管理無くして為し得ないことを強調するとともに、人材も含め戦略的にビジョンを描いて活動していくことが大事であり、アメリカが100年かけて行ってきた足跡だけを辿るという道を参考にはしながらも、日本独自の在り方にもっとチャレンジすべきだと展開しました。

その他のシンポジウムの登壇者は、「日本体育大学の社会貢献活動と日本版NCAAへの貢献」と題して佐野昌行氏(日本体育大学)、「スポーツ健康コミュニティづくりに向けた立命館大学ならびに関西の取り組み」と題して伊坂忠夫氏(立命館大学)、「パラスポーツ普及推進事業を通した地域社会連携と日本版NCAAへの貢献」と題して吉村雅文氏(順天堂大学)、「体育会イノベーション〜新しい組織作りとリーダーシップ〜」と題し岩出雅之氏(帝京大学)、「大学スポーツの今後の展望〜大学スポーツの改革に対する筑波大学の取り組み〜」と題して松元剛氏(筑波大学)でした。最後に、日体大アスレティックデパートメントの長であり、本シンポジウムの実行委員長を務めた、アテネ五輪アーチェリー銀メダリストの山本博氏(日本体育大学)が壇上に上がり「日体大アスレティックデパートメント」について「アスリートの資質の涵養と競争力向上」「安全・安心にスポーツを行える環境整備」「社会との結びつきの強化」「日体大のスポーツの魅力発信」という4つの取り組みの紹介とともに、大学スポーツへの貢献について講演しました。

本シンポジウムの合間には、本年、世界を舞台にして活躍した日体大アスリートの表彰式が行われ、同大の中から、世界体操選手権体操男子・ゆかで金メダルの白井健三選手、世界選手権レスリング・グレコローマンスタイルで金メダルの文田健一郎選手がそれぞれ登壇、その功績を讃え、花束が贈呈されました。

以上のとおり、本シンポジウムでは、来年度創設予定の日本版NCAAをめぐりさまざまな角度からの意見が発表されると共に、大学スポーツの振興についての活発な議論が展開されました。