2017年10月24日 主観を大事にする現場で
客観的な数値データをどう利用するか


藤原 敏行  准教授


藤原 敏行  准教授

運動やスポーツ動作を、力学、生理学、解剖学的な観点から分析・評価し、パフォーマンス向上や傷害予防への応用を目指す「スポーツバイオメカニクス」。男子体操競技部の監督として、その理論をコーチング現場で実践する藤原准教授に、データ活用の重要性とビジョンについて語ってもらいました。

カナダ留学で積んだ体操指導の実践と経験

平成元年に大阪体育大学がこの地に移転したときに開設された「トップスポーツクラブ」が体操との出逢いです。そのまま小学校、中学、高校、大学と、ずっとここで体操を続けてきました。

大阪体育大学大学院でバイオメカニクスを学んだ後、カナダのアルバータ大学に留学しました。留学先を探すとき、英語圏でバイオメカニクス分野の博士号を取得できる大学という基本条件に加えて、高いレベルの体操競技を実際に見られる、できれば指導ができるところをと思っていました。これらの条件をすべて満たす場所はなかなか見つかりませんでしたが、アルバータ大学があるエドモントンという町はカナダで有名な選手がいる町だったので、とりあえず「そこに行けば何とかなる!」と乗り込んでいった結果、本当に運よく地元の体操クラブで指導させていただくことになりました。そこでは国際色豊かな指導陣のもと、オリンピック代表選手や多くのジュニアナショナル選手を含むハイレベルな選手が育っており、特に男子はカナダの中でも当時トップのクラブでした。

アルバータ大学で学位をとる過程で学んだことは現在の研究者としての基盤になっているのはもちろんですが、体操競技指導を通じて得た機会や人とのつながり、そしてその経験は、より広く深く今の自分のベースになっていると実感しています。本当に恵まれた人たちの中で5年間の留学経験をさせていただいたと感じています。その後2011年に大学に戻り、体操競技の指導とバイオメカニクスの授業を担当しています。

選手や指導者の主観的感覚の精度を高める数値データ

日本の体操界では、まだ客観的な数値データを活用するアプローチが普及していないと感じます。もちろん数値データだけで表現できないことが多いのは承知していますが、現場で使えるものはどんどん使っていけばいい。現場で使えないというのは、データの価値そのものの問題だけではなく、それを得るための手法やフィードバックのタイミングなどが、現場のトレーニングにマッチしないことにもあります。

しかし、そのような課題を克服し、現場で日常トレーニングを継続する中で利用可能な数値データを提供できるなら、もっと使われる可能性があるし、豊富なデータ蓄積を基に研究もさらに進んで、現場に還元できることが増えます。

他の種目でも共通するところはあると思いますが、体操は選手自身の“感覚”がとても重要視されます。しかし、主観的感覚は日によって狂いがあったり、不安定でもある上、言語での表現にも限界があります。絶対的な数値データで表現されるものは主観的感覚をより磨くために役立つ場合があると考えます。その測定値が人の主観的感覚よりも高い正確性、信頼性をもって即時に出され、毎日継続して行われると、長期的にトレーニングを行う競技選手のモニタリングや、選手間での比較がしやすくなるのです。

客観的数値データというのは、主観的、経験的な感覚と一致していない間はなかなかピンときません。例えば急に「今の宙返りの高さは1.5mだったよ」といわれても、あまり価値のある情報にはなりません。しかし、日常的に測定を行うと経験的な主観的感覚と客観的な数値が対応してきて、今の感じでは大体1.5m跳んでいるということが感覚的にわかってきます。そうなると、数値データが意味を帯びてきて、自分の中での感覚のズレの修正や、トレーニング効果の評価、他人とのパフォーマンス比較に数値をもっと利用出来るようになります。

誤解を招かないように付け加えると、体操の場合は絶対的な高さだけでなく、たとえ同じ高さでもどれだけ高く魅せるかという表現も大事になります。だからと言って絶対的数値は意味がないというのではなく、要はそれをどのように利用するか次第だということです。例えば、ある二人の選手の宙返りの高さが同じ計測値であるのに、一人の方が高く見える場合、そこに魅せ方の技術を考える材料があるかもしれません。

これまでに、あん馬の頭上に計測装置をつけて、水平面回転の雄大性を客観的に評価すること、つり輪に力センサーをつけて力技トレーニング時の補助の量を評価することに関して、学生が自由にデータを確認できるようにシステムを開発してきました。どちらも選手が日常的に練習を行う中で、練習の邪魔をすることなくデータを取得し、すぐにフィードバックできるようになっています。体操競技は種目が多く、練習時間も長くなりますので、いかに日常練習の時間や空間に干渉することなく、価値あるデータを測定し即時的にフィードバックできるかが、現場での活用には重要であると考えています。この装置の導入はまだまだ改良の余地があるものの、これまでにない取り組みの貴重な一歩になると期待しています。

世界一を目指すマインドで
取り組む重要性

大学男子体操競技部監督としての最終目標は、理論的にも実践的にも日本一そして世界一。指導理念としては、大阪体育大学の学生、関係者すべてが誇りを持てるクラブでありたいというものです。

それには国際交流や研究面でいろいろな取り組みをしたところで、最終的な競技成績が伴わなければ説得力がない。現状ではインカレの上位からも離されていますが、競技実践の基盤を整え、着実な取り組みのもと成績をあげることで、より高みを目指すチャンスが生まれます。まずは確実に一部に上がれるように取り組んでいきます。

それと同時に「大阪体育大学を卒業する学生は、ほかの大学を出た体操選手、関係者よりも、スポーツ科学への造詣が深いな」と思ってもらえるよう育成することも大切にしていきたい。それも教科書的な知識だけでなく、実践の中での応用的理解を深めたい。うちの選手が将来指導者になったときには、各自の培った感覚や経験に加えて、科学的な視点も活用して指導ができるように、自分たちが競技実践している今から、現場でそれらに触れる機会を提供できればと思っています。

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