2017年10月24日 トップアスリートを支える科学の目と分析
世界のハイパフォーマンス研究・サポートの拠点へ


石川 昌紀  教授


石川 昌紀  教授

選手のデータ収集を行い、測定評価からトレーニング・コンディショニングの即時フィードバックを行う「ハイパフォーマンス研究・サポートプロジェクト」を推進する石川昌紀教授。学内のアスリートはもとより、日本代表選手や海外のトップ選手・コーチが信頼を寄せ、研究室を訪れます。石川教授に大体大DASHのハイパフォーマンスサポートの現状と展望を聞きました。

測定データを提供し、トレーニングの悩みをクリアにする役割

フィンランドのユヴァスキュラ大学で博士課程を修了し、ヒトの身体能力に関係する、筋肉や腱、神経のトレーニングの可能性について研究してきました。ヨーロッパのトップクラスの選手にとって、”科学”に対する敷居は低く、ジュニアユース選手からメダリストまで話をよく聞きに来てくれました。特に衝撃的だったのは、アテネオリンピックで金メダルを獲った選手。彼は、小さい頃から父親のサポートのもと独自のトレーニングで勝ち進み、アキレス腱の怪我との戦いの日々の中、相談に来ました。筋と腱のトレーニング効果の違いや彼のトレーニング内容のチェック、その評価方法など、彼独自のトレーニングの方向性をクリアにすることをサポートしてきました。

後に彼から「自分がやってきたことは間違いじゃなかったという確信を持てた」と言われて……。私たちの仕事はこうやって現場で活かされるんだということを逆に教えてもらい、仲間と感動して泣いたこと覚えています。スポーツ科学で社会を変えるには何が必要か。スポーツ科学でつなぐ、研究と現場の橋渡しについて真剣に考え始めたのはこの時です。

その後大阪体育大学に着任して、主にヒトの身体能力の可能性と限界についての研究をベースに、学部・大学院生を指導し、指導者やサポートスタッフの養成に務めてきました。現在は大体大DASHプロジェクトとして、学内・外のハイレベルな競技選手の身体能力を高めること、競技復帰やコンディショニングを求める選手のサポートを行っています。

情報の収集と提供で、選手とWIN-WINの関係に

私たちが行っているサポートは、アスリートが自分で身体の状態を知ることができるための情報を分析して提供することです。指導者やアスリートの取り組みに効果があったのか、客観的に評価すること。そして、トレーニングの提供とその評価。学校の試験と一緒で、トレーニングしてきたことが上手くいったのかを評価しています。

主観的な評価だけでなく客観的に評価することの重要性も説いてます。アスリートが「もう疲れた」と感じたときには身体はすでに疲弊しています。風邪をひいてから薬を飲むよりも、ひきはじめの段階で飲むほうが効果的なように、疲れや怪我もヒドくなる前に処置するのが理想。周りの人が目で見てわかるようなダメージやストレスの状態では遅いことが多いのです。

今はインターネットが普及し、良くも悪くも情報が手に入ります。情報を処理できず消化不良の選手もいますし、コーチに“おんぶにだっこ”の選手もいます。国家100年の計ではないですが、選手の100年の人生を考えること。選手自ら身体の状況を多角的に捉え、周りと議論し、自分で判断できるようになること。そこに目を向けてもらうのが私たちの役割です。

方法としては、数値で見せる、動きを撮影したデータや動作解析などで視覚的に生体の情報を提供するということがメインです。しかしながら、このようなことはどこでもやっています。我々の特徴は、データを即時フィードバックし、世界のトップ選手などの知見を基に、動きの特徴やトレーニングの必要性を具体的なプランとして提案し、実行・達成効果を再評価した後、継続してもらう次の目標設定を提案していくことです。また逆に、選手側からの情報提供やフィードバックをしてもらうことで勉強させられることも多くあります。測定データ収集・計画提案・実施到達評価・効果検証・継続目標設定と、評価・研究モデルを確立し、たくさんの選手・チームと、WIN-WINの関係で研究させてもらっています。

選手自身に気づかせるアプローチ

選手へのアプローチ方法は、もちろん選手それぞれの状況により異なります。ただ、どんな選手に対しても「こういうプログラムで練習しなさい」という一方的なアドバイスは基本的に行いません。選手がいかに自分で積極的に取り組み、議論できる環境とすることに重きを置いているからです。
「このトレーニングはなぜしているの?」
「そのトレーニングは本当に改善すべき最優先課題?」
「その動作を改善するには、3つほど効果的な方法があるけど、どうする?」
と、時間はかかりますが、話し合い、アドバイスを行うスタンスで選手に関わっています。その上で、選手が自ら興味を持ち、自分の動きや筋肉を見てみたいとなった場合には、所有する世界各国のトップアスリートのデータを活用し、同じ種目の強い人と比べたときに自分の筋肉や腱がどう違うのか、動きがどう違うのかというような解説をします。選手は比較対象がないと自分の状態はわからない。トップの選手や良かったときの自分と比べてどうかということを、自分で気づいてもらうのが目的です。

大体大DASHが始まって、自ら「見てもらいたいんですけど……」と、研究室を訪ねてくる選手は増えました。ただ継続してくる選手もいれば、すぐに来なくなる選手もいます。学校のテストと同じで、狙って取り組んでいないと良くなりません。基本的にサイエンスはツールですから、根気よく本気で取り組み、使いこなすつもりでやってもらわないといけません。

スポーツ科学で研究と現場の橋渡しの実践

世界でもユニークなハイパフォーマンス・サポートシステムをつくろうという目標で昨年大体大DASHがスタート。データをリアルタイムでフィードバックしたり、選手の長所短所をしっかり把握し提供するシステムなどはできあがり、本学の学生はもとより、実業団、高校、大学、社会人の選手にも利用してもらえるようになりました。このシステムを利用し、リオオリンピックや先日の世界選手権に出場した選手も多く、メダルを獲得した選手もいます。日本だけではなく、世界のコーチ、選手が興味を持ってくれ始めたという実感ができる段階にはきており、スポーツ科学で研究と現場の橋渡しがはじまりました。

利用してくれた選手が、「あと5年早く知りたかった」と言ってくれ、現役引退後、指導者として施設を利用してくれる人も出てきました。また利用してもらうこともそうですが、指導者の学びの場の提供のため大学院での機能強化、国内外の選手を受け入れる環境整理、外部研究機関との連携強化、研究・サポート強化のための外部資金の獲得、スタッフ育成など課題は山盛りです。

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